例年の年明けならば、1月にたくさんの会員がクラブに戻ってきて、新しいフィットネストレンド予測で盛り上がる時期。しかし、2020年に猛威を振るった新型コロナウイルスの影響が未だ残っている中、2021年のフィットネス業界がどうなるかは、今後のワクチン開発や接種状況に大きく左右されることでしょう。しかし、数年先に目を向ければ、どのようなトレンドが出てくるのかが少し見えてくるでしょう。
過去10年間に、ブティッククラブブーム、イマーシブクラス、そして HIITが流行したように、年々進化を遂げるグループフィットネスにおいては、2020年代はさらに新しいトレンドと、それにより大きく変化するでしょう。
1. ブティッククラブとバジェットクラブの融合
過去10年間の中で成功例としてよく挙げられるのは、ブティッククラブとバジェットクラブで、フィットネス参加者の半数以上が、それらクラブを好むと回答しています(2019年、Qualtrix調査)しかし、ブティッククラブがグループフィットネスに重点をおいてきた一方、バジェットクラブはグループワークアウトを採用しない傾向がありました。
EuroActiveの新しいレポート「2030年への見通し~健康・フィットネス産業の未来(HORIZON 2030 – The future of the health and fitness sector)」は、2030年に向けてこれらの2つの異なるクラブ形態がそれぞれに影響し合うようになると予測しています。価格競争により低価格化が進むことを見据え、規模の大きいバジェットクラブチェーンの多くは、グループフィットネスやデジタルサービス、栄養食品などの付加価値をつけ、クラブ体験を「プレミアム化」し、市場に残されたチャンスを掴もうとしています。競争が激化する中で、この傾向は2030年まで続くと予想しています。同時に、オンデマンドや自宅でできる質の高いグループフィットネスクラスが普及する中で、クラブ会員はバジェットクラブでもグループワークアウトできることを当たり前と思うようになってきます。
一方、ブティッククラブは都市部以外にも広がり始めています。より手頃な価格にすることでブティックフィットネス体験を「民主化」することを目的とした、低コストのブティッククラブが増えています。また、Saints and StarsやStyles Studios Fitnessなどの新しいタイプのブティッククラブは、複数のグループワークアウトスタジオとパーソナルトレーニングジムを組み合わせたサーボス提供をし始めています。様々な形態のクラブが増える中、どのタイプが今後成功するでしょうか?その結果を占うにはまだ早いですが、より多くの選択肢とより質の良いフィットネス体験を手にすることができる消費者だけが、今の段階で「唯一の勝者」と言うことができます。
2. 総合スポーツクラブの復活
幅広いトレーニングニーズと、リモートワークの普及により都市部から郊外への移住が増えていることから、総合型スポーツクラブにとってチャンスが広がっています。世界中の主要な総合クラブは、クラブ内にブティックを作るためにグループフィットネスに投資しています。ダブリンのWest Wood Clontarfは、サイクルブティックのThe Chainを展開したことで素晴らしい業績を上げ、David Lloydクラブでは、HIITブティックのBlazeで高成績を納めています。
プールや駐車場などに加えて、世界トップクラスのブティック体験を提供することができる総合型クラブは、ブティックワークアウトを求め別クラブに行く会員を引き止め、より多くの利益を得ることが可能になります。
3. 鍵を握るのはアクティブ世代
将来のトレンドを予測するにあたって最も信頼できる指標の一つは、若いクラブ会員のフィットネス習慣です。世界のフィットネス人口のうち80%を占めるミレニアル世代とZ世代(2019年、Qualtrix)で構成される「アクティブ世代」の好みこそ、今後数年間のクラブを形作るのです。
フィットネス業界はベビーブーム世代(1946年から1964年に生まれた世代)とX世代(1965年から1980年に生まれた世代)と共に成長してきましたが、時代は変化し、だからこそクラブも戦略を変えなければなりません。世界のクラブ会員の平均年齢は35歳以上ですが、世界の5,000クラブの分析によると、新規入会者の大多数が20代であることが示されています(グラフ参照)。 アクティブ世代はそれ以前の世代とは異なり、グループでのエクササイズし、幅広いワークアウトの選択肢があり、新技術との融合などを好みます。そのため、今後10年間でアクティブ世代を勝ち取るためには、サービス提供の彼らの嗜好に合わせていくことが不可欠です。
アクティブ世代の求める高品質なグループワークアウト体験を提供し、彼らを惹きつけることができるクラブこそ将来成功を手にするでしょう。
4. 人々を繋ぐソーシャルフィットネス
グループフィットネスは、人気が高まっているという理由のみならず、様々な社会問題を提起するものとして、今後10年間クラブが重点的に取り組むべき分野です。最近のMen’s Health UKの記事では、フィットネス専門家に2029年のクラブ展望について聞いたところ、次のように述べています。
「グループフィットネスは“万人向け”ではありません。しかし、クラブの規模に関わらず高まるグループフィットネスの人気は、クラブが将来的に人と人との「つながりの場」として役立つことを示唆しています。」
世界中の人が孤立を味わった2020年。その反動で、人々はブランドや同じマインドを持つ仲間とのつながりを求めています。コミュニティの一員であると感じたいのです。クラブが「繋がり」を感じられるフィットネス体験を提供することにより、2030年にはかつて集会所などが担っていた「溜まり場」としてコミュニティ醸成する場になるでしょう。
最近の調査では、エクササイズ体験を共有することで、人々がデジタルからリアルな体験に戻る後押しすることが、クラブの重要な役割として示されています。Journal of Sport、Exercise and Performance Psychologyに掲載されたレズミルズのグループフィットネスに関する研究では、グループエクササイズ参加者は楽しさや達成感/満足感をより強く感じることが分かっています。それは、「グループネス(グループ効果)」がクラブ会員のワークアウト体験にプラスの影響を与え、また参加したいと思わせると言っています。
5. インストラクターに注目を
ソーシャルフィットネスが普及するにつれ、今後10年間でインストラクターの重要性が認識されるようになるでしょう。オートメーション(自動化)とデジタル化の時代において、競合との差別化を図れる唯一の強みは「人」です。一人の優れたインストラクターが何百人もの会員をクラブに惹きつけるように、そのようなインストラクターのチームができればクラブの将来さえ変えることができるのです。
アクティブ世代が人との繋がりを重視してワークアウトする場所を選ぶようになっていくため、今後10年間は参加者にインスピレーションとモチベーションを与えるインストラクターのスキルが、クラブの成功の鍵となります。ミレニアル世代とZ世代の37%が、グループワークアウトする場所を決める時にもっとも重要視しているのは、インストラクターであると回答していることがわかっています。(2019年、Qualtrix)。
6. 評価される“ロックスター”インストラクター
インストラクターの質は今後10年間のフィットネス業界においてますます重要になりますが、その中で2030年にクラブが成功するために取り組むべき課題の一つは、インストラクターへの報酬です。この点、ブティッククラブは総合型クラブよりもアクションが早く、高い報酬を約束することで、トップインストラクターを獲得し、知名度を上げることができています。
IHRSAによると、従来のクラブで支払われるインストラクターへの報酬は、1クラス約2900円(28米ドル)です。これは、1980年代からほとんど変わっていません。パーソナルトレーニングやブティッククラブが2〜3倍の報酬を支払っている中で、クラブはもっと高い報酬をお支払いする方法を考えなければ、新しいインストラクターを採用することは困難です。
7. シームレスなフィットネス体験
今のフィットネス消費者は、自分のライフスタイルに合い、好きなタイミングでワークアウトができるような、利便性の高いフィットネス体験を求めています。クラブ会員の85%は、コロナ前にもすでに自宅でワークアウトを行っていたことからわかるように(2019年、Qualtrix)、クラブが会員とのエンゲージメントを維持するためには、あらゆるフィットネス体験を提供することが重要であることを示しています。グループワークアウトならば、ライブクラス、バーチャルフィットネス、オンデマンドが提供されることで、クラブ内だけでなく、クラブ外においても、クラブが会員のフィットネスニーズに応えることができます。
アップル、アマゾン、フェイスブックなどの大手IT企業がフィットネス業界に参入し、早いスピードでフィットネスアプリ、ウェアラブル、オンデマンドソリューションが提供されているように、消費者のフィットネスに対する期待値も急速に変化しています。その期待に応えるため、クラブは革新を続け、競争力を維持しなくてはなりません。
「ほとんどのクラブにとって、世界最高のブティッククラブでの体験や、アップルやグーグルに匹敵するハイテク製品を生み出すことは非常に難しいでしょう。しかし、体験とデジタルを融合したフィットネス体験を提供することは、実現可能な目標です。」と、Les Mills のキース・バーネットは述べています。
「スーパーと同じように、消費者はどんなフィットネスニーズも満たすことのできる場所を求めています。クラブは、ライブクラスが提供するモチベーションと人とのつながり、そしてデジタルを駆使した自宅でできるワークアウトなど様々なサービスを提供する必要があります。アップルや成功しているブティックにも提供できないサービスを提供することで、クラブは会員の維持、そしてまた新規会員の獲得に繋げることができるでしょう。」
8. 革新的なフィットネス体験
デジタルフィットネスの影響力は、その進化とともに急速に変化したフィットネスとの付き合い方に象徴されていると言えるのではないでしょうか?特にこのコロナ禍においては。大手クラブでのデジタルフィットネスの採用が標準となり、業界が今後10年間で次世代のデジタルフィットネス時代に突入する中で、提供コンテンツの品質が、クラブのデジタルソリューションの成功を左右する最大の要因になります。
大切なのは、モチベーションを与え、楽しみながら成果も期待できる、高品質のオンデマンドフィットネスコンテンツとライブ配信クラスを提供することです。YouTubeで無料のフィットネスコンテンツ多数提供されている今、クラブは世界トップクラスのサービス提供することで会員に継続して通い続けてもらう必要があります。
9. デジタルフィットネスは、クラブやインストラクターの味方か敵か?
オンデマンドフィットネスは、間違いなく今後10年間で拡大し、これがクラブの成長の鍵となるでしょう。テクノロジーを賢く利用することで、新しい層にリーチし、より多くの人々をクラブに呼び込み、ひいてはフィットネス市場の成長に繋がります。
多くの業界関係者は、オンデマンドのフィットネスサービスが従来のクラブの会員を奪うのではないかと懸念を表していますが、数値はそうではないことを示しています。近年、デジタルフィットネス革命が加速していますが、クラブの会員数と普及率は着実に増加しており、2019年には記録的なクラブ会員数となりました。
このデータから読み取れるのは、デジタルフィットネスがより多くの人をフィットネスの世界に呼び込み、費用や利便性など、過去にクラブ入会をためらう理由となっていたこと解消するのに役立っているということです。あまり活動的ではないが自意識が高く、時間があまりない人たちが今、デジタルフィットネスを始めており、その結果、業界の成長とクラブに足を運ぶ機会を生み出しています。これらのことから、デジタルとリアルの世界をつなぎ、シームレスな総合的フィットネス体験を提供するクラブが、2020年代の勝者となります。
10. 極めて重要な10年
過去20年間、フィットネス業界はニッチなレジャーとして認識されていたものから、世界的なムーブメント、ひいては健康な世界を創造する重要な役割を担うまでに成長してきました。心身のメンタルヘルス対策や気候変動危機、経済的不平等の人類最大の課題に取り組む中で、フィットネス業界が力を発揮することになれば、次の10年間の活動と成長は極めて重要です。
ベテラン会員のモチベーションを上げ、新規会員を増やすグループフィットネスは、2030年のフィットネス業界を形作る上で大きな役割を果たします。デジタルソリューションは、フィットネスの民主化とより多くの人に間口を広げる上で重要な役割を果たすことは間違いありません。