目まぐるしく進化するフィットネス業界において、2022年は1年を通して様々な変化があると思われます。
新型コロナウイルスの影響で、戦略を変えざるを得なかった過去2年。その間に、世の中の流れに合わせ、新しい計画を立ててきましたが、今後12ヶ月は今までよりも早いペースで変化を実感することでしょう。
それでは、果たしてどのような変化が待っているのでしょうか?パンデミックで見てきた変化の延長戦でしょうか?もしくは2年間非日常を味わったフィットネスファンが、馴染みのあるフィットネス体験を求めにくるのでしょうか?
ブティッククラブブームやフィットネスゲームなど多岐にわたって見てみたときに、今後12ヶ月注目されそうなフィットネストレンドをピックアップしてみました。
1. 「ゲーム化」が顕著に
フィットネス、ファッション、音楽、エンターテインメントをミックスした「エクサテインメント」は、企業間コラボや革新的商品開発に火をつけています。
ウェルネス関連ニュースを配信しているロンドンのWelltodo社が実施したトレンドレポートには、「エクサテインメント」の重要性とZ世代が牽引するこの動きにフィットネスブランドは乗り遅れてはならないとまとめています。
「Z世代の86%が、パンデミックが始まった当初より色々なことに興味を持つようになっていることがわかり、フィットネスブランドは「フィットネス=エンターテインメント」として捉える必要がある。多様性に合わせたフィットネスの変革は、新しい世代を引きつけ、取り込めるチャンス」であると調査には記載されています。
その中でも最も楽しみなのが、フィットネスのゲーム化です。2022年初頭には人気が高まるでしょう。既にサイクルフィットネスアプリのZWIFTやナイキ本社を模したバーチャル空間アプリなどにあるように、THE TRIPに続くイマーシブワークアウトの新時代が到来しています。
フィットネスのゲーム化の成長に伴い、企業間でコラボする機会やエンタメに興味のあるユーザーを新たに獲得するチャンスになるかもしれません。2022年に複数の有名企業がゲーム化されたフィットネス体験を提供すると噂されているので、乞うご期待!
2. クラブに通う新しい世代
Les Millsで実施した「2021グローバルフィットネスレポート」で50%の回答者が健康をより意識するようになったとわかったように、パンデミックの影響により、健康意識が高まりました。また、対象者の82%が定期的に運動(またはする予定)していて、そのうち75%は主にフィットネス施設で行う運動をしていることがわかっていることから、フィットネスが世界最大のスポーツということができます。
新型コロナウイルスによる制限が緩和され、クラブも通常営業に戻る中、この結果はフィットネス経営者にとって成長のチャンスと言えるでしょう。あとは、どのユーザー層をターゲットにするか目標を明確にするだけです。
同調査では自らを「フィットネス初心者」と分類した人が27%いることがわかりました。パンデミックをきっかけにフィットネスを始めた人は多く、彼らは既に次の「フィットネス体験」を求めていると言えるでしょう。
ユーザーのニーズをしっかりと理解し、フィットネスを楽しむ上で障壁となるものがあるかを見極めることがフィットネス施設として成長する鍵になります。例えば、グループで運動することに興味があると答えた人が81%いる一方、66%は一人で運動したいと回答していることから分かるように、初心者にとっては「しっかり準備できてから」「自信が持ててから」ということが重要になると言えます。そのためにはインストラクターやスタッフが暖かく迎え入れたり、長く継続して参加できるようにモチベーションを高めるサポートをする必要があります。
3. 労働力不足も輝く「スター」たち
どの業界でも労働力不足が謳われる中、今いる「スター」たちを維持しながら2022に輝く人材を引きつけるために努力する必要があります。
「人件費上昇のため、クラブは採用戦略を再考し、できる範囲で優秀な人材獲得に切り替えるべきである。短期的には大きなコストとなるかもしれませんが、人材が大事な業界においては優秀なスタッフとインストラクターは強豪との差別化に有効です」と、米国で有名なクラブマネージャーのアーブ・リップスマンは説明します。
ライブクラスに参加するきっかけ/動機付けについて聞いたところ、28%がインストラクター、24%が音楽、21%がクラスの種類と回答しています。ライブクラスの復活にインストラクターは欠かせません。インストラクターこそモチベーションを高め、会員の求めている強い繋がりを実現してくれるのです。このように「人との繋がり」を求めてクラブ通いを再開する会員がたくさんいる中、クラブスタッフもとても重要な役割を担うことは言うまでもないです。
新規会員獲得において、どのクラブに入会するか決める際に30%が「いい雰囲気」と回答していますが、一番多い回答が59%の「スタッフ」でした。
フィットネスにおける「繋がり」がより重視される中で、インストラクターはその中枢にいます。多くの場合、インストラクターの質こそが、新規会員がフィットネスにハマるかハマらないかを決めると言われています。インストラクターをしっかりマネジメント(適切に対応/評価)すれば、彼らは会員をしっかりとフォローしてくれます。
4. ブティックブーム
10年に渡る目まぐるしい成長を遂げたブティック。主に会社員をターゲットし、都市中心部にある上に、パンデミックによりリモートワークが進んだことで客足が減り、大きな打撃を受けた業態の一つと言ってもいいでしょう。
IHRSAによると、米国のフィットネス施設の27%がパンデミックの到来とともに休業しており、そのうちブティックの占める割合が多かったと言います。しかしながら、このような状況下でも「ブティッククラブ体験」が今まで以上にニーズが高く、ブティックと総合型クラブが手を組む構図なども見えてきています。
「敵わないなら手を組もう」という戦略を取るようになっており、世界の大手総合型クラブがグループフィットネスに投資し、クラブ内にブティックを作っているのです。2021年11月には、米国のブティッククラブXponentialが、LA Fitness and City Sports Clubs内にブティックを作ったことを発表、ダブリンのWest Wood ClontarfはサイクルブティックThe Chainで素晴らしい成果をあげ、アジアではPure GroupやVirgin ActiveがTHE TRIPに投資するなどが報告されています。
プールや駐車場などの設備に加えて、世界トップクラスのブティック体験を提供することで総合型クラブは、今まで会員がブティッククラブにお金を使っていた分も回収できるようになっているのです。
ブティックブームはこれに留まりません。総合型クラブはもちろんのこと、新しいフィットネス施設も総合型とブティックを融合した形で展開をし始めているので、今後のブティックブームの行方が気になります。
5. 有名ブランドの参入
フィットネスの急成長を受けて、Apple、GoogleやAmazonなどのIT大手がフィットネス市場に参入していますが、フィットネスと全く関連のない企業の参入も見えてきています。
マクドナルドがキャンペーン賞品としてクラブへの招待券を配布したり、Pullman HotelがLes Millsのオンラインワークアウトを活用したり、Technogymがファッション大手Diorとコラボしたりしているように、さまざまな業界大手が健康産業に興味を示しているのです。
このトレンドは、フィットネスブランドの注目度をあげ、新しい顧客へのリーチを可能にします。現代のコンシューマーは目が肥えていて、このようなコラボはとても有効だと言えます。
6. みんなのためのフィットネス
人種間の平等や女性管理職などの多様性を訴える様々な社会運動が起きている中で、フィットネスが果たす役割はとても重要だと思います。
この動きによって各業界において変革する機会をもたらし、フィットネスブランドにおいては多様性を受け入れることが必須となっています。従業員、契約企業様、そしてコンシューマーもそれを当たり前のことだと捉えるのです。
前述のWelltodo調査には「社会動向に合わせて広まったウェルネス。今後フィットネスブランドに求められるものは、人それぞれのアイデンティティに加え、人生におけるそれぞれのステージにてサポートすることです」と記載があります。
多くの団体は、フィットネス業界内でDEI (多様性、平等性、インクルーシブ)にコミットし改善していく方針を示しています。2021年11月には、WIFA(フィットネスにおける女性協会)がフィットネスにおける多様性、平等性、インクルーシブを評価するために、業界関係者を対象にアンケートを行い、その結果は2022年Q1に発表される予定です。
もはやトレンドというよりDEIを促進するためにフィットネス業界も活動していかなければならないのです。
7. 「第2の場所」
新型コロナウイルスの影響でリモートワークが普及し、これからもこの「新しい働き方」は継続されることでしょう。Slack社が実施した調査によると、労働者のわずか12%が通常のオフィス勤務に戻りたいと回答している中、72%はハイブリッドなリモートワーク形式を望んでいることがわかりました。
会社と自宅に続く「第3の場所」としてポジションを確立しようとしてきたクラブにとって、さらに上を目指す機会が到来しています。施設によっては、「第2の場所」としてオフィスとクラブスペースを融合した展開も可能なのです。
大手総合型ジムやブティックは、すでにワークスペースの提供を行なっていて、他のクラブもその流れに影響されています。会員維持に効果的だけでなく、「第2の場所」であることでクラブにとって売上アップにもなるのです。
8. ライブの復活
新型コロナによる自宅フィットネスブームの影響を受け、フィットネス施設は衰退していくと言われていましたが、実際にはライブクラスの需要が増えていることがわかりました。調査によるとクラブ会員の85%が通っているクラブで実施しているライブクラスに参加してみたいと回答しています。さらに行動制限が緩和された地域においてはクラス参加率が新型コロナ前と比べ120%になっていることもわかっています。
自宅ワークアウトを強いられた2年間、仲間と共にライブクラスを体験したいと思う人が増えています。クラブ会員の67%はグループでワークアウトしたいと回答し、ライブ配信クラスと比較してライブクラスは2倍人気があることもわかりました(44%がライブクラスを好み、23%がライブ配信を好む)。
「外出できない期間が長く続き、馴染みのあるクラブで仲間と共にワークアウトすることが楽しみで仕方ないのだと思います。レストランやスポーツ観戦と同じようにフィットネスも「ライブの復活」を遂げ、人と交流する時間/空間を取り戻しているのです。最高のインストラクターとともにモチベーションを高めながら楽しめるライブクラスが恋しかった人がたくさんいたのですね」とフィリップ・ミルズは説明します。
9. 会員の体験の見直し
ライブクラスが復活し、フィットネス施設に会員が戻ってきていますが、デジタルワークアウトの出番が終わったというわけではありません。クラブ会員の80%が継続してデジタルワークアウトを利用すると言っています。
これはオムニチャネルフィットネス(クラブ内外でのワークアウトの組み合わせ)を提唱するものです。クラブ内外のワークアウトの理想的な比率を調査で聞いたところ、多くの回答者(59%)がクラブ:自宅=6:4と回答しているように、パンデミックが明けてもオムニチャネル戦略を継続する必要があると言えます。
この新しい流れによってクラブ経営者は、クラブ会員とのつながりや会員がクラブとともに歩む「ジャーニー」がどのようなものかを再考する必要があります。参加率を測るだけでなく、クラブと会員のあらゆるタッチポイントを考慮し、そのすべてにおいて会員との繋がりを強化しなければならないのです。
「フィットネス施設にとって最も重要な戦略は、クラブの「壁」を越えた総合的なオムニチャネルソリューションをクラブ会員に提供することです」と、米国ニュージャージー州のAtlantic ClubのCOOケビン・マクヒューは言います。
10. Content 2.0
過去10年間あまりデジタルコンテンツの普及が進まなかったが、パンデミックから2ヶ月後にはデジタルコンテンツに溢れかえったフィットネス業界。
消費者のデジタルコンテンツニーズが高まる中、デジタルを通じての体験に対する期待値が高まりました。現在世界で375,000を超えるフィットネスアプリが存在し、消費者はより質の高いデジタルコンテンツを求め、妥協を許さない状況です。これこそContent 2.0です。
AppleやGoogleなどが展開する高品質デジタルフィットネスはフィットネス施設にとって脅威に変わりありません。これら競合に負けぬよう質の高いデジタルコンテンツの提供と合わせて、クラブでしか体験できないライブクラスの優位性を訴えつづけることでIT大手との差別化を図る必要があります。