ブティックフィットネスに関する最新レポートの中から、主な調査結果について教えてください。
フィットネス業界は近年爆発的に拡大しており、長い目で見るともっとも恩恵を受けるのは消費者でしょう。クラブ会員が複数のクラスに連続して参加する別名 “フィットネス・カクテル” が注目を集め始めている今、ブティッククラブと展開するプログラムの多様化が進み、消費者はこれまで以上に多くの選択肢を持つようになるでしょう。すでに、いくつかのフィットネスブランドは、この “フィットネス・カクテル” にならい、何かひとつのクラスを取った後、続けて異なる種類のプログラムに参加を促すようになってきています。このように多様性や、連続してクラスに参加するスタイルは、ブティックでもバーチャルフィットネスを提供するクラブでも、非常に人気を集めているのです。
現代のフィットネス消費者についてブティックの台頭が物語るものとは?
統計を見ると、ブティックの利用者(特にミレニアル世代やZ世代)はたくさんの選択肢があることを好み、制限されることを好まないことが分かります。そのため、高い会費を支払ってでもブティックを掛け持ちして自由にできることは、彼らにとって大きな魅力なのです。ブティックのルーツはグループフィットネスにあり、多くの人が一度に参加する機会を提供します。成功を収めるには、より幅広いオーディエンスの興味を引き、参加者が何度でも通いたくなるような魅力的な体験を提供する必要があります。
ブティック業界は今後どう進化していくとお考えですか?
これから3年のうちに、企業の合併・買収がさらに進み、業界全体の売上げはどんどん膨らんでいくでしょう。ロンドンやアメリカではブティック業界へ巨額の投資が行われています。興味深いことに、こうした投資は、ホテル経営者や不動産開発業者、そして有名なアスリートやボクシング世界チャンピオンなども行っています。つまり、ベンチャーキャピタリストやヘッジファンドだけが資金を投じているのではないのです。
ブティック・ブームがフィットネス市場全体に与える影響とは?
私たちは毎年イギリスのフィットネス業界の監査を行っていますが、ここ数年、ブティックの増加に伴い、イギリスの全7,000クラブのグループフィットネスに著しい成長が見られます。現在、民間クラブの62%が専用のグループフィットネススタジオを所有しており、この割合は、公共のスポーツジム施設では72%に上ります。スタジオ数の増加によりプログラム提供数も増え、これが参加者を増やし、会員を長期的に維持することにつながっています。イギリスにおけるこのトレンドは、海外でもよく見られる傾向です。
従来型スポーツクラブがブティックから市場シェアを取り戻すためには?
すでに従来型スポーツクラブの中には、グループフィットネス事業に大きく投資したり、ブティックにはない設備強化で誘致をしたりしています。経営者の中には、ブティックに対抗して「クラブ内クラブ」の形でサービスを展開し、大きな成功を収めています。また、ブティック型ビジネスモデルは、一つのフィットネス体験のために高めの会費を支払う余裕がある人が減少していくことで、遅かれ早かれ参加者の限界に達するということにも留意する必要があるでしょう。
新たなフィットネス市場を形成する上で、ソーシャルメディアの役割はなんでしょうか?
長年クラブでの携帯電話使用を禁止しようとしてきましたが、今やお客様がSNSなどで情報拡散し、広告塔になってもらうことほど嬉しいことはありません。ブティックは、ソーシャルメディア(特に他のプラットフォームに比べエンゲージメントが高いInstagram)のポテンシャルにいち早く気付いていたため、拡散したくなるクラブデザインを徹底していました。
従来型スポーツクラブはYouTubeやInstagramのポテンシャルに気が付くのが少し遅れているように思います。原因のひとつには、これらの正しい活用方法の理解とクオリティー維持の問題だと思います。加えて、質の高い管理されたブランディングに対して、SNSなどを使ったユーザー発信情報をどの程度取り入れるべきなのかを模索しているということもあるでしょう。これはとても難しい課題であり、クラブモデルによってそれぞれのやり方で取り組んでいるのが現状です。
自宅でできるフィットネスサービスが拡大する中、従来型スポーツクラブはどのような戦略を立てるべきでしょうか?
テクノロジーが、フィットネスの次なる飛躍的な成長の原動力となることは間違いありません。スポーツクラブとオンデマンドフィットネスの相互利用は間違いなく高まり、クラブ会員にクオリティーの高いコンテンツや包括的なフィットネスサービスを提供することのできるクラブにとっては非常に良い組み合わせとなるでしょう。この流れにうまく適応できないスポーツクラブにとっては、クラブ会員の流出につながる可能性もあるので、経営者は消費者の好みや今後の動向を注視し続ける必要があります。ホームフィットネス市場の大手といえばPelotonですが、観てみると面白いものです。しかし、人は昔から家庭で使えるイクイップメント/ツールを買っては程なく宝の持ち腐れにしてしまうことがあります。今回は違う結果となるでしょうか?
AppleやGoogleといったIT大手もフィットネスに投資し始めています。業界全体にとって、これは何を意味するのでしょうか?
世界の大手企業や優秀な組織はフィットネス業界に参入してきています。AppleやSamsung、Googleなどはいずれもフィットネスウォッチから参入し、今後も歩みを進めて行くことでしょう。競争は激化しますが、こうした企業のおかげで業界の成長にも貢献するため、一概に新規参入が悪いということはできません。最終的には消費者が一番恩恵を受け、新しいテクノロジーは彼らの「エクスペリエンス」を高め、データから新しい傾向や考察などを得ることができるようになります。
この先数年間で、この状況はどう進展するでしょうか?
この先数年間でもっとも興味深いのは、コンピューター・チップを身に着ける日が来るのか否かということでしょう。すでにコンピューター・チップはテクノロジーとしては存在し、これがあることで健康状態をモニタリングしたり、かつてない有用な情報をフィットネス指標として活用することができます。しかしチップを埋め込むことについては、健康面やプライバシーの問題が生じます。Google Glassのように途中で頓挫するのか、あるいはコンピュータ・チップを埋め込むことがスマートフォンを持つように当たり前になるのか、とても興味がありますね。