中国語では、「クライシス」という言葉には「危険」と「チャンス」の両方の意味があります。そのため、2020年の初めに新型コロナウイルス感染症が中国を襲ったとき、リスクを感じたクラブもあれば、それをチャンスと捉えたクラブもありました。
中国は新型コロナウイルスに苦しんだ最初の国であったため、他国の前例を参考にすることができず、中国の企業は先の見えない、完全に未知の世界に突入することとなりました。
あらゆる業界において、新型コロナウイルスは企業の市場戦略を一から再考することを余儀なくさせました。レズミルズを導入している1,400あまりの中国のクラブにとって、これは今までのやり方を捨て、人々のフィットネスニーズを満たす新しいアプローチを模索することを意味しました。
必要は発明の母とはよく言ったもので、以前は収益を会費に頼っていたクラブは、戦略の見直しを迫られました。その結果、5月にロックダウンが解除されてからは、これらのクラブはデジタルサービスの無償提供、効率の高い手法、そして収益と顧客基盤を拡大するための新たなチャンスを手に入れていました。
パンデミック後、中国のクラブはどのように力強い復帰を果たしたのでしょうか。そして、他の国のクラブは、中国の例から何を学ぶことができるでしょうか。ポストコロナのフィットネス市場についての9つの洞察と、危険を回避し、チャンスを手に入れるための戦術をご紹介します。
1. 回復の芽生え
新型コロナウイルスを受けてすべての人にとって健康が最優先事項となることで、コロナが収束しクラブが通常営業に戻ったあとには、クラブは大きな成長を期待できるでしょう。
ロックダウンから6か月、中国のクラブの会員数はコロナ前と比較し80〜120パーセントとなっています。2021年のピーク時を迎えるにあたり、ライブフィットネス体験と健康的なライフスタイルに対する消費者ニーズが高まり、クラブでは更なる大幅な成長が見込まれます。
中国では前向きな意識が生まれてきていますが、依然としてコロナの影響は残ります。第二波を避けるため、中国政府は人々の行動をトラッキングするシステムや衛生対策の厳しい規制を敷いており、クラブには入り口での体温測定し、会員はクラブやほとんどすべての公共の建物に出入りするためにはトラッキングアプリを使用する必要があります。運動中のマスク着用に関しては、当初は着用が義務付けられていましたが、現在は段階的に廃止されてきています。
2.デジタルがフィットネス市場の成長を促進
クラブはロックダウンを機に充実化したデジタルサービスを活用することで、より多くの人々を施設に呼び込むことができるようになりました。中国の人口14億人に対して、ジムの普及率は3%未満。これから会員となりうる見込み客がまだたくさんいます。
企業がオンラインサービスを通じてファンを獲得し、オフライン(実店舗)へ誘導するO2Oのビジネスモデルは、今や一番のコミュニケーションプラットフォームのWeChatの普及により、中国で非常に人気があります。
Super Monkey、Shape、LefitなどはO2Oを実践しているクラブです。SNSを活用して消費者に広くリーチし、オンラインで獲得した新しいファンを最終的にクラブ会員にする、という流れを構築しています。オンラインワークアウトはクラブ入会の検討を促すために効果的です。入会後に体験するライブクラスやモチベーションを高めてくれるクラブ環境に期待を膨らませ、オンラインで獲得した見込み客がクラブ入会することでしょう。
ポストコロナの勝者となるのは、デジタルフィットネスとライブフィットネスの両方を上手く運用し、O2Oに成功したクラブでしょう。このように成功したクラブにとって、デジタルフィットネスは通常運営の一貫となっているのです。
3.「やるからには思いっきり」が新会員のマインドセット
クラブの主な懸念の一つは、デジタルフィットネスの普及により多くの会員が自宅でのワークアウトを選んでクラブから離れてしまうことでしたが、それは杞憂であることが証明されました。
多くのクラブでは、運動習慣を取り戻す会員が増え、ロックダウン解除後のスタジオ参加率はコロナ前と比較し30%以上向上しています。コロナ太りを解消するために通う人もいる中、多くはクラブ再開に対する喜びともっと体力作りに励みたいという強い気持ちを持っているのです。
このようにコミュニティを大事にし、また自宅ワークアウトでは得られないライブの環境でインストラクターに鼓舞されたいと思う人が多いため、グループフィットネスは早く回復したと言えるでしょう。
ロックダウン解除後、多くのクラブがまず再開したのはグループサイクルプログラムです。それはバイクが定位置にあるため、確実にソーシャルディスタンスを保てるためです。 BODYPUMP™やCXWORX™などのクラスも参加者が自分の位置から移動する必要がないため、早いタイミングで再開されました。BODYCOMBAT™やLES MILLS GRIT™などのより強度の高いクラスは、規制が緩和されたあと再開し、より高い運動強度を求める会員たちによって歓迎されました。
4.クラブスペースをアップデート
グループフィットネスの盛り上がりを機に、より収益性を高めることを目指して、クラブはスタジオスペースの改修と拡大に着手し始めました。
あるクラブは既存施設の改修、また別のクラブは在宅勤務による活動エリアの変化に合わせ、施設の移転に踏み切りました。
新型コロナウイルスは多くのクラブに大きなキャッシュフローの課題をもたらしましたが、経営状況が改善するにつれて、スタジオスペースに投資するクラブが増えてきています。既存のクラブスペース内にブティックスタジオを設けることで、収益向上できると見込んだクラブも多数あります。
コストの最適化とクラスの質を維持しながら、グループフィットネスのタイムテーブルを充実させようとする中で、バーチャルフィットネスの導入も増えてきています。上海のIAPMモールにあるPure Fitness Clubでは、バーチャルフィットネスが8月に開始し、現在、グループフィットネススケジュールの約20%を占めています。在宅勤務によってクラブ会員の時間の柔軟性が高まり、オフピークの来館が増えるため、タイムテーブルの拡充が求められます。
5.競争力の強化
新型コロナウイルスによる経済的な逆風が個人消費を落ち込ませる中、フィットネス市場では低価格化競争は起こっていません。むしろ、クラブは会員の体験向上による差別化に重点を置いています。
差別化において競争力のある価格設定も要素の一つですが、もっとも注力しているのは、より良いサービス、長い営業時間、より良いスタジオプログラム、そして洗練された内装によって会員体験を向上することです。これは、急速な成長を推進することに焦点が置かれていた最近までの傾向とは対照的です。従来、中国のクラブは前払いの年会費制度を導入しているところが多かったのですが、中国で170のプレミアムクラブを運営するWill’s Fitnessは、契約なしの月会費制を導入しました。今後は、多くのクラブがこの流れに倣うことが予測されます。
このような動きにはいくつかの要因が考えられますが、一つはクラブが人々の健康とフィットネスへの意識が高いうちに手を打つ必要性を認識したことです。フィットネス熱が冷める前に、「1年分の会費を支払わなければならない」という参加障壁を取り除き、クラブに入会しやすい環境を整備することに取り組み始めました。もう一つは、中国政府による規制の強化です。10日間のクーリングオフ期間など、消費者の権利を改善するためのさまざまな措置が導入されました。
クラブ体験と入会後のフォローは、クラブが成功を測るために最も重要な指標となり、会員維持率と会員生涯価値が、新会員の売上に取って代わるようになったのです。
6. インストラクターの水準が急上昇
もう一つの大きなトレンドは、パンデミックが人々の生活に相当な変化を与えたということです。何百万人もの人々が引っ越し、転職し、自身にとって本当に重要なものを考え直すきっかけとなりました。これは特にグループフィットネスインストラクターに当てはまります。
クラブも優先事項を精査する中でスタッフ体制の見直しを行っています。質の高いインストラクターの需要はかつてないほど高まっていますが、パフォーマンスの低いインストラクターは転職を考える必要に迫られています。ここではインストラクター歴ではなく質が重視されるため、実力主義が生まれ、結果としてインストラクターの水準を引き上げることに繋がります。より優れたインストラクターがより多くの会員を引き付け、より長く会員維持できるようになり、クラブには大きなメリットとなります。
パンデミックは、スキルの高いインストラクターのSNSを活性化させました。リーチを広げ、新しいフォロワーの獲得につながり、クラブにとっては好影響を及ぼしました。
ロックダウンはまた、インストラクターのスキル向上と能力を磨く機会をもたらしました。意欲の高いインストラクターはスキルアップのために努力を重ね、他のインストラクターから抜きんでることができたのです。
それは、中国のトップインストラクター400人が参加し、100万人以上の人が視聴したオンライングループフィットネスコンテスト、「Les Mills THE ONE 2020」に象徴されます。努力を惜しまなかったインストラクターはフィットネス業界で大きな注目を集め、SNSフォロワーの大幅な増加という形で報われました。
7.「ステイケーション」でホテル内クラブに脚光
ポストコロナにおいて想定外の脚光を浴びたのが、ホテル内クラブでした。一般的なクラブよりもはるかに高価なプレミアム施設ですが、グループフィットネスを含む会費はさらに30%高い価格で提供されています。
ホテル内クラブが会員獲得できている理由の一つは、グローバルブランドに裏付けられる信用力により、一般的なクラブよりも清潔で安全な環境を提供するイメージがあるからです。中国では特にブランド力が重視されます。
ホテル内クラブが成長したもう一つの理由は、ロックダウン解除後、フィットネスをテーマにした「ステイケーション」(近場のホテルなどに滞在することで気軽に旅行気分を味わうこと)が注目を浴びたためです。中国人は旅行が大好きですが、国から出れない状況の中、休暇中は電車で近隣の都市へ行き、ホテルに滞在しているのです。
この動きにホテル内クラブは迅速に対応し、様々なワークアウトを体験できる、フィットネスをテーマにした休暇プランを提供しました。そこで、クラブのインストラクターは市内観光のツアーガイドも兼任します。世界のフィットネス人気がさらに高まり、ステイケーションが他の国でも注目されることで、2021年には他の国でもホテル内クラブが形を変えていくことでしょう。
8.メンタルヘルスがより重要に
新型コロナウイルスにより中国がロックダウンに入った時、危険に晒されたのは体の健康だけではありませんでした。パンデミックはまた、高レベルのストレスと不安を引き起こしたのです。複数の中国の研究は、人々が高レベルのストレス、不安、および心的外傷後ストレス障害を経験していることを発見しました。ある研究では、半数が深刻なうつ病の兆候を見せているのに対し、別の研究では、35%の人々が不安感に苦しんでいることが示されました。
ロックダウン解除後、消費者は身体的な健康のためだけでなく、精神的健康のために運動するようになったとクラブは報告しています。格闘技系クラスはキックやパンチの動きでストレスを解消することができ、ヨガのクラスは精神のバランスや安定、質の高い睡眠を求める参加者で溢れています。コロナ前は、人々は運動に多くの理由を求めていませんでしたが、ポストコロナにおいては、運動する目的を明確し、結果を得るための最良の方法を意識するようになったのです。
クラブにとっては、ワークアウトの効果と科学的に証明された結果を積極的に発信することが重要です。特にウェアラブルなどのデジタル装置が普及する中では、効果の裏付けを会員に伝えることが求められます。
9. 未来に投資する
新型コロナウイルスは大人の健康意識だけでなく、子どもたちの活動にも焦点を当てるきっかけとなりました。コロナ前は中国の子供たちは学力で評価されていましたが、現在学校では運動能力にも重点を置いており、高校の入学試験では身体能力が問われるようになりました。
中国政府は幼稚園過程も含め学校教育での運動を重視し優先しており、BORN TO MOVE™(日本未展開の子ども向けレズミルズプログラム)などは、学校や家庭で人気を集めています。
また、ニーズに応えるためにクラブでは子供も含む家族会員パッケージや子供向けプログラムなどのサービスを強化しています。子供のころから運動を習慣付けるお手伝いをクラブが担うことで、将来の会員獲得の機会にも繋がっています。
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