日本ではまだ馴染みがありませんが、世界では5月は「メンタルヘルス啓発月間」です。メンタルヘルスの問題を取り上げながら、解決策を提案することを目的としています。解決策という意味では、スポーツクラブなどのフィットネス関連施設が担う役割は大きいと言えるでしょう。
スポーツクラブは「健康的な身体づくり」を目的とした利用が主ですが、近年メンタルサポートのケアにも有効であるということが認識されるようになりました。運動がメンタルヘルスのサポートになるということは様々な調査でも検証されていますが、それはまた世界中にメンタルヘルス問題を広めた新型コロナウイルス感染症の出現で、より顕著になりました。
アメリカ心理学会が2021年3月に発行した調査によると、新型コロナウイルスによるストレスレベルが急激に上昇しており、アメリカ人の31%が感染症でメンタルヘルスが悪化したと回答しています。また、世界中で行われている他の調査でも、感染症によりストレス、不安感、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に悩む人が増えていることがわかっています。
世界の大半が昨年1年間隔離状態で過ごした中、コミュニティなどにおけるパーソナルな繋がりを求める声が多く、フィットネスにおいても同様です。人との繋がりを感じられるエクササイズ体験を提供することで、かつて飲み屋や教会などが人の集まる場所として知られていたように、今はクラブがその役割を担うチャンスに恵まれているのです。「つながり」の場を提供するほかに、急成長している世界のメンタルウェルネス産業が1,210億ドル(約13兆円)に値するというグローバルウェルネス研究所(GWI)の報告からも分かるように、メンタルヘルス改善をサポートするサービス提供もまたクラブにとっては今後大きなビジネスチャンスとなるでしょう。
レズミルズの研究責任者、ブライス・ヘイスティングスは言います。「今や、クラブはフィットネスのサービスを通じて、従来フィットネスを選択肢として考えていなかった健康問題を抱えた人たちにリーチすることができるのです。一番の”治療薬”は身体を動かすことで、科学的に裏付けられたワークアウトから得られる健康効果をもっと実証することができれば、クラブはより多くの人にサービスを提供し、”健康的な世界”の創造を加速させることができます」。
定期的に運動することは引き締まった筋肉と健康で強い心臓を作ることは周知の通りですが、脳への効果もたくさんあります。知力を上げ、依存の症状を抑え、また想像力をかき立てたり、ストレス軽減にも有効なのです。では、どのようにして運動と精神的安定の関係性を明らかにし、クラブ会員に訴求すればいいのでしょうか?ワークアウトすることで得られる精神面の利点を、クラブ会員と共有するための6つの方法についてご紹介いたします。
#1 “スイートスポット”を探す: 鍵は「適度」
効果を得るために、ハードな運動は必要はありません。短い時間で適度に運動することこそ、精神安定に大きな影響を及ぼすと専門家は口を揃えます。アメリカの成人120万人を対象にしたある研究によると、マラソンのような長時間にわたる運動よりも、45分間運動した人の方がよりいい精神状態にあることがわかりました。また同調査では、週に3〜5回運動することが最も適切ということがわかり、その頻度で運動した人はまったく運動しない人/週5回以上運動している人より、精神不安定状態の続く日が減少していました。
どのようにエクササイズがネガティブな感情を和らげるのかを調べている科学者たちは、週4回の有酸素運動を行うことで、うつ症状や孤独感を改善する効果があると説明します。それはウォーキングなどの少ない負荷の運動でも、ストレス軽減や不安感を拭う効果があるのです。
#2 小さなことからコツコツと
朝のルーティンに20分間の中強度有酸素運動を取り入れるだけでも、気分を高めることができると証明されています。エンドルフィンを多く分泌するだけでなく、その効果は12時間持続します。また、それは有酸素運動に限ったことではありません。23の文献を調べたところ、どんなエクササイズでも幸福感を高めることができると結論づけたのです。週にたった10分間の運動でも幸福感は増し、1日に最低でも30分運動している人は、全く運動していない人に比べて、30%も幸福度が高いと言います。そして、その効果は前述の通り長い間持続し、長い時には一週間持続することもあるのです。
#3 一緒に運動
研究者たちは、どのような運動が特にメンタルヘルスに効果的なのか調べたところ、一番効果があるのがチームスポーツ、続いてサイクル系、そして有酸素系ということがわかりました。これら運動から分かるように、グループで実施するエクササイズがメンタルヘルスに有効ということができます。この結果を裏付けるようにある調査では、12週にかけてグループワークアウト(この調査ではLES MILLS COREを実施)した人は、一人で運動した人よりストレスレベルが低く、また身体、精神、感情面においても優れていたのです。また2019年に実施した調査によると、グループワークアウトをすることで満足感や達成感をより得られることも明らかになっています。
#4 ヨガ:夜にやりましょう
ヨガをベースにしたエクササイズは、気分を高めるものとして知られており、また最近の調査でも、呼吸法を意識して行うヨガは、うつ症状の改善に効果的と言われています。そして、この効果を最大化させるためには、ヨガを夜行うことがいいとされています。最近の研究で分かったことなのですが、夜にヨガをすることで、睡眠の質が改善され、ポジティブな気持ちになり、また身体的、精神的ストレスからの回復が早まると説明しています。調査の中で、2週間のうち週3日、夜に20〜30分間ストレッチし、10分瞑想するルーティンを取り入れてもらったところ、心拍変動、睡眠の質、自信、モチベーションが高まり、さらに不安感、緊張感そして悲しみが抑えられたのです。
#5 ウェイトトレーニング:重さは気にせず
多くの科学者は、ウェイトトレーニングすることは、抗うつ薬や心理療法と同等の効果があると信じています。それは重さや鍛えられる筋肉量に関係なく、ウェイトトレーニングのようなレジスタンストレーニングを行うことで、達成感と自信をつけることができるからなのです。その効果は、うつ症状のみならず不安感をも軽減するのです。初めての方は、スクワット、ランジ、プランクなどの体幹を鍛え、姿勢をよくするレジスタンストレーニングから始めることをお勧めします。
#6 脳もトレーニング
神経生物学研究によると、マインドフルネス(「今、この瞬間」を大切にする生き方)を意識することは神経可塑性に影響を及ぼすと提唱します。最も影響を受けるのは、自己調整、自己認識と集中力です。マインドフルネス瞑想は、脳が過剰に反応しないよう指示し、柔軟に対応できるよう促します。興味深いことに、このような瞑想に参加する人は、他人にも自分にも思いやりを持てる場合が多いと調査では明らかになりました。
最後になりますが、体の中の変化を意識してみましょう。運動すると、脳由来神経栄養因子(BDNF)というタンパク質が増加し、それは脳内の神経細胞を活発化させます。神経科学者のモリース・カーティス氏は、「運動は、脳内に新しい神経細胞を作るよう促すのです。新しいことに挑戦することは、脳にとってポジティブな影響しかないのです」と説明します。毎日同じ運動を繰り返せば、それが上手にできるようになりますが、運動の幅を広げ、新しいことにもチャレンジしてみましょう。
身体的健康と精神的健康は、切り離せないもので、精神的不安定な状態を改善するためには運動はとても効果的な方法の一つです。