クラスに参加する人たちの人生をより健康的なものにするため、インストラクターは日々膨大な時間や労力を費やしています。クラスでの指導は喜びをもたらす素晴らしいものですが、同時に肉体的および精神的に大きな負担となり、燃え尽き症候群や疲労やケガにつながることも。会員のためにベストを尽くすことに集中するあまり、自分自身の休息と回復を忘れがちになってしまうのです。
IMT(イニシャルモジュールトレーニング)で、インストラクターはクラス参加者のロールモデルとなることの重要性を学びます。これは身体的なことだけでなく、フィットネスと向き合う姿勢、つまり精神的なことも意味しています。例えば、インストラクターが疲れた状態でスタジオに現れたり、またはネガティブなヴァイブスでいたりすると、それはクラス参加者に伝わってしまうものです。Les Millsアンバサダーのハウス・シャーレーンは、自分の身体が発する声に耳を傾けることの重要性を訴えます。
「疲労感や焦燥感、痛みなどのシグナルに注意を払うことで、パフォーマンスの低下はもちろん、ケガを未然に防ぐこともできるのです。フィットネスのプロにとって、ケガ対策は最もフラストレーションの溜まる作業のひとつです。インストラクターにとって己の身体は商売道具であり、しっかりとしたケアは必要不可です。私たちは他人のケアに集中するあまり、往々にして自分自身の健康をおろそかにしがちです。セルフケアを優先することはロールモデルとしての義務なのです。それは身体的な健康だけでなく、精神的な健康にも気を配るということを意味しています」と語ってくれました。
では、どのようにして多忙なインターナショナルプレゼンターは自身を再生するための時間を確保しているのでしょうか? クラスへの情熱を保ち、キャリアを長続きさせるための秘訣を聞きました。
ナターシャ・ヴィンセント:トレーニングに緩急を付ける
母親、インストラクター、マスタークラスプレゼンター、さらにLes Mills Auckland Cityのグループフィットネスマネージャーなど、ナターシャ・ヴィンセントは様々な顔を持っています。当然、完全なオフはほとんどありません。すべての役割をベストな状態でこなせるよう、彼女はトレーニングのバランスに気を配っています。そして、LES MILLS LIVE Berlinのようなハードなイベントに向けては、入念な準備に時間を割くようにしているそうです。
「以前までは、フィルミングの週になると毎度のように疲労困憊していました。レギュラークラスの日々から膨大な量のリハーサルを行う週へと急激に変化するからです。なので、ベルリンではテクニカルコンサルタントのロブとパーソナルトレーナーのコーリーと協力して、本番に向けて徐々にボリュームを上げていけるよう調整しています。つまり、筋力や体幹、有酸素、モビリティなどのエクササイズを必ず毎週行いつつ、少しずつトレーニングを増やしていくことで、フィルミング本番を迎える頃には、私の身体が必要な運動量に対応できるようになっているというわけです」。
「週1~2回のペースでトレーニングを行っていたところから、いきなりBODYCOMBAT™とLES MILLS GRIT™ Cardioのフィルミングに徹底的に注力する週へ突入しました。しかし、2日目でギブアップでした……。完全復活にはほど遠い状態でしたし、不慣れな子育てとの両立もあって、リハーサルは身体的にも精神的にもとても大きな負担でした。8年間のフィルミング経験において、あれ以上に辛かったことはありません。普段とは異なる状態だったにも関わらず高い運動能力を求め、案の定身体は応えてくれませんでした。その週にケガをし、回復するのに数週間かかりました。あれほど心身共に消耗したことはありません」。
グループフィットネスマネージャーでもあるナターシャは、クラスやトレーニングのスケジュールを見直し、筋力や体幹のトレーニング、有酸素運動、モビリティのエクササイズなどをバランスよく行うようにとインストラクターにアドバイスしているようです。
「インストラクターとして、新たなストレングスクラスやカーディオクラスを取り入れることは簡単ですが、何よりも自分の身体を気遣い、ひとつに偏り過ぎないようなルーティンを組むことが重要です。もし代行や新曲リリースイベントなど、いつもより多くのクラスをこなしたのなら、その負担をどのように相殺し通常ルーティンに戻すかを考えましょう。私たちはプロのアスリートより運動量が多くなる傾向にある一方で、リカバリーのための時間は少ないとされています。毎日ハイパフォーマンスを続ければ、当然ですが大きな負担になります。今年、私はそのことを学びました。以前は自分のクラスだけをこなしていましたが、今は他の人のクラスにも参加し、よりバランスよくトレーニングすることを心掛けています」。
ディー・ロウェル:まずは自分のコップを満たす
母親であり、看護師であり、フィットネスインストラクターでもあるディー・ローウェル。これら3つの仕事は、すべて誰かに何かを与えるものです。そのための十分なエネルギーを蓄えるため、彼女は週1回ペースでとあるセルフケアをするようにしているそうです。
「セルフケアの内容は週ごとに異なりますが、意識的に自分のコップを満たす時間を作っています。フィットネスインストラクターとして、自分のコップが空ではクラスの参加者にシェアすることはできません。私たちインストラクターは多くを他の誰かに捧げ、クラスやメンバーのために存在していると言っても過言ではありません。だからこそ、自分自身のエネルギーレベルが枯渇していてはダメなのです」。
「母親として、看護師として、そしてフィットネスインストラクターとして、今の私はエネルギーの大切さを深く理解しています。以前はただ与えるばかりでしたが、今では生活の中で上手くいっていないことを排除できるようになりました。そのため、以前よりも燃え尽き症候群にならないようになりました」。
「取り返しがつかなくなる前に、その兆候に気付けるようになりました。例えば、なかなかとれない疲れ、すぐイライラする、上手く感情をコントロールできない、常に何かに追われているように感じる、これらはよくない兆候と言えるでしょう。クラスで教えることが楽しくない、それもひとつです」。
「まずは予兆に気が付くことが大切です。次に、その原因を特定すること。日々のルーティンを振り返り、つまらないものを見つけ、楽しいことに変えられるよう行動を起こしましょう」。
「アドバイスとしては、燃え尽き症候群になる前に自分自身としっかり向き合うことです。時には少しわがままになってもいいと思います。フィットネス業界において、私たちインストラクターは無欲だと思われていますが、もう少し自分のために時間を費やすことで、他の人に還元できるというものです」。
ハウス・シャーレーン:ヨガ
ハウス・シャーレーンは、心身共にリラックスできるヨガが大好きです。
「ちょっとしたルーティンとして、時間があればヨガをするようにしています。何より気持ちが落ち着きますし、疲労やケガを防ぐのにも役立ちます。クラスの合間にも時間さえあれば、同僚のヨガクラスに参加したりもします。身体的なメリットだけでなく、精神的な健康にもすごく効果的です。インストラクターは身体を酷使する仕事です。それは紛れもない事実ですが、それ以上とは言わないまでも、この仕事は精神的にも大きな影響を与えます。精神的にいい状態だと、それは身体にもいい影響を及ぼします。逆に精神的に健康でなければ、十分なパフォーマンスを発揮できないのです」。
シンガポール在住のフランス人であるハウスは、常に異なる言語で人々と接することに疲れることがあると言います。
「たまには 『自分の時間 』が必要です。贅沢な時間である必要はありません。私は1日の大半を教えたり、説明したり、メンバーや同僚、友人とおしゃべりをして過ごします。疲れている時などは特に、母国語ではない英語で話すのが大変です。まるで私の脳が『ちょっと待って!』と言うかのように思考停止する瞬間すらあります。なので、身体的にも精神的にも、時には一時停止して充電する必要があるのです。テレビでドキュメンタリーを見たり、ビデオゲームをしたり、ひとりの時間を作ります」。
身をもって燃え尽き症候群を経験したハウスは今、無理をしないように細心の注意を払っているそうです。
「数年前のコロナ禍、ビザの関係で妻がフランスに帰らなければならなくなり、私はひとりでシンガポールに残りました。パンデミックの最中にシンガポールに引っ越してきたので、まだ知り合いも少なく、そもそも誰かと会うこともままならない時期でした。彼女が帰国したのは8月のことで、私も10月には休暇でフランスに戻る予定でした。それまでの間、私はノンストップで仕事ばかりしていました。妻のいない時間が早く過ぎるようにと、とにかく自由時間ですら忙しくしていたかったからです。そうしていると、気付かないうちに自分自身を追い込んでいました」。
「フランスに帰国した頃には、すっかり疲労困憊していました。最初の5日間は、動くたびにケガをするんじゃないかと思ったくらい、身体は言うことを聞きませんでした。仕事量の多さと時差ボケのせいで心身共にボロボロで、フランスに着いた時、私の不調は誰の目にも明らかでした。ありがたいことに、家族や愛する人たちと一緒にいることで立ち直ることができました。物事をゆっくりと考え、自分のペースを保つことで、健康な状態に戻ることができたのです。その経験から、今はオーバーワークに気を付け、常に休む時間を確保することの大切さを理解しています」。
ケイラ-ブレア・フィッツシモンズ-ヌー:境界線を設定する
ケイラ-ブレア・フィッツシモンズ-ヌーは、燃え尽き症候群を経験しなかったのは家族や同僚のおかげだと言います。
「深刻な燃え尽き症候群にならなかったのは幸運でした。ダイアナ(アーチャー・ミルズ)は、仕事が達成可能な量であるように、そして適切な休息を取れるように、いつだって私たちに配慮してくれています。また、フィジカルやメンタルが疲れた時のサポート体制も用意してくれています。ちょっとしたことのためでも自分の時間を確保するようにしていますし、ダイアナや家族と本音で話すことで自分が正しい方向に進んでいるのか確認するようにしています。でも、誰かに指摘されるまで、疲れ切っている自分に気づかないこともありますよね」。
インストラクター、クリエイター、マスタークラスプレゼンターとして多忙な日々を過ごすケイラ-ブレアは、身体的な負担が大きいと感じたら、それを軽減することを心がけているそうです。
「トレーニングに関しては、自分の身体の声に耳を傾け、体調や月経周期の状態に合わせて適切なオプションを選ぶようにしています。疲れている時は身体を酷使しないように、賢くトレーニングすることが大切です」。
ケイラ-ブレアが実践するセルフケアでは、自身の境界線を設定することが重要です。
「多くの時間や労力をメンバーやチームメイト、仕事に費やしているため、自分がどれだけ疲れているのか気付かないことがあります。人のためにベストを尽くすには、まず自分がベストな状態でなくてはいけません。だからこそセルフケアは重要なのです。もし社会との接触に疲れていると感じた時、誘いを断ることもひとつの選択肢です。私にとってのセルフケアは、ストレッチや逆にまったく運動しないこと、パートナーや家族、親しい友人と過ごすこと、そして自分をかわいくすることです! ネイルや髪をセットしたり、日焼けサロンに行ったりします」。
ブロンテ・テレル:休みをとる
俳優からグループフィットネスマネージャー、マスタークラスプレゼンター、インストラクターまで、多岐にわたって活躍するブロンテ・テレルは、自分の役割以上の仕事をこなすことに慣れています。
「何度か燃え尽き症候群を経験しました。複数のジムでたくさんのクラスを教えながら、インストラクター以外の仕事や日々の人間関係と向き合い、そして自分の人生を生きる。誰かを喜ばせることが大好きな私ですが、頭の中で『ブロンテ、もうやめなさい。もっとペースを落としなさい』という声が聞こえてくることだってありました。それでも、身体的にも精神的にも無理をしてきたのです。ベッドから一歩も出たくないほどどん底に突き落とされたこともあります。身体的にも精神的にも疲弊して、一時は負のスパイラルに陥ったこともありました」。
かつての彼女は休養することにさえ抵抗があったと言います。
「何年にもわたって、燃え尽き症候群を防ぐことは困難でした。私にとって必要なのは、ギリギリの状態の時に自分のための時間が必要だと気付くことです。そうすれば、いくつかのクラスに代行を立て、心身を落ち着かせるために数日間休む選択ができるのです」。
「数ヶ月に一度、週末を利用して北ウェールズ地方に行くようにしています。美しい山々は私に平和と静寂、落ち着きをもたらしてくれます。以前の私は、休みをとって代行をお願いすることに不安を感じていました。人にどう思われるかという恐怖、メンバーを失望させることへの恐怖、いろいろなことへの恐怖です。でも今は休みをとるこそ、心身共に最適な状態でいるために必要なことなのだと理解しています」。
「ノー 」と言えるようになったことが、彼女にとって大きな変化をもたらしたと言います。
「カイリー・ゲイツのライフコーチングを宣伝する訳ではありませんが、彼女のコーチングセッションを何度か受けたことがあります。時折疲れ果て、落ち込むことはありますが、燃え尽き症候群になるより辛いことはありません。カイリーがセッションで教えてくれた方法を実践するようになってから、私の人生は大きく変わりました」。
インストラクターへのアドバイスとして、ブロンテは「決して譲れないものを学ぶこと」と言います。
「境界線を決めて、自分のためにならないことに対しては『ノー』と言えるようになりましょう(手伝いたい気持ちもわかりますが、代行クラスを引き受けることが大きな負担になってしまうのであれば断るべきです)。わがままに聞こえるかもしれませんし、最初は(誰かを喜ばせることが好きな私にとって)とても嫌でしたが、この変化はとても大きな意味を持っています。正直なところ、週に1回でもクラスを増やすと心身共にネガティブになってしまい、そこまでしてやる価値などないことがわかります」。
マギー・チェン:メディテーション
マギー・チェンはメディテーションが好きで、息抜きが必要な時はビーチでリラックスするそうです。
「セルフケアにおいて決して譲れないことは、十分な睡眠とトレーニングをする時間です。私にとってのセルフケアとは、ひとりで静かな時間を楽しむこと。燃え尽き症候群にならないように、心を落ち着けるためにメディテーションを行います。可能なら、旅行に出かけたりもします。海を眺めながら、自分に何が必要かを考えるのが好きです。音楽を聴いたり、友人とキャンプへ行くのも好きです。将来自分がどうなりたいか、そのために自分の人生で何を調整する必要があるか、それらをしっかり考えることが大切なのです」。
マーロン・ウッズ:「少ない方が豊かである」という考え方
多忙な毎日を過ごしているマーロン・ウッズは、Les Millsのアンバサダーとしての活動と並行して、カスタマースペシャリストとしても働いています。一度に多くのことを引き受けないようにすることで、複数の役割をこなしています。
「セルフケアという意味で私が自分に言い聞かせている言葉は、 『less is more(少ない方が豊かである)』です。多くのことをやろうとすると、いっぱいいっぱいになってしまうからです。以前は自由な時間が多いと不安になりましたが、今ではそれを受け入れることができます。ゆっくりと確実にやることで、自分を大切にできていることを実感できます。私のセルフケアに必要なのは、クラス以外での運動、ヨガ、読書、メディテーション、水泳です。また、トレーニングのピリオダイゼーション(期分け)にも計画的な休憩を組み込んでいます」。
「2021年から2022年にかけて、私は燃え尽き症候群を経験しました。学位取得、本の執筆、アイアンマンのトレーニング、仕事、自問自答……。これらをすべて同時に抱えていました。膨大な『やることリスト』をこなしながら、締め切りのあるものと重要なものを優先的にこなしました。2022年の7月から8月にかけて、私はようやく息ができるようになったのです」。
他のインストラクターへのアドバイスとして、「自分なりのセルフケアを見つけること」とマーロンは言います。
「自分に合うものを見つけること。YouTubeやInstagram、TikTokを絶対的なものとして受け止めてはいけません。自身で試行錯誤することが必要なのです。セルフケアは人それぞれであり、自分に言い訳をすることではありません。その見極めとバランスを取るのは難しいですが、長期的に見ると必要なことなのです」。