「人はあなたが言ったことも、あなたがしたことも忘れてしまう。だけど、あなたに対して抱いた感情を忘れることはない」マヤ・アンジェロウ
なぜ人はあなたのクラスに来るのでしょうか?
この質問に対する答えは十人十色でしょう。あなたのクラスが持つエネルギーやフィジカルが好きなのかもしれません。もしくは、あなたのわかりやすいコーチングや向上心を掻き立てる動き方が好きなのかもしれません。あなたのユーモアに惹かれているのかもしれませんし、逆にストイックに指導してくれるからかもしれません。
クラスに足を運ぶ理由は様々ですが、ひとつだけ共通していることがあります。そう、あなたが相手をどのような気持ちにさせるかが重要ということです。
「誰かに勧められたから」「ワークアウトに対する情熱を誰かと共有したいから」「人前に出ることが好きだから」「シフト以外の時間に無料でジムを利用したかったから」など、人は様々な理由からグループフィットネスインストラクターを目指します。しかしながら、実際にクラスを受け持つまで、インストラクターが人の人生に変化をもたらす可能性など知る由もありません。
今の時代、クラス参加者の誰しもがありのままの自分を認められ、自分らしくいることをあと押しされ、そして大切な存在として扱われることがより重要になってきています。
16年ほど前、イギリスに住んでいた私はインストラクターになったばかりでした。当時、リリースDVD(DVDだった時代を覚えていますか?)の冒頭で見たエデュケーションを今でもはっきりと覚えています。そこでフィリップ・ミルズは、モチベーションの重要性について語っていました。「ワークアウトをしたければ、家の近所を走ればいい。人があなたのクラスに来るのは、モチベーションを求めているからです」。彼の言葉はとても印象的でした。
2024年現在、人は様々な形でワークアウトを楽しむことができます。アプリを使ってバーチャルワークアウトをしたり、YouTubeやInstagram、TikTokの動画を真似たり、目標に合わせてAIにプランを作ってもらうことだってできます。理論上では、リアルなクラスと同じような結果を得られるフィットネスは無数にあります。では、私たちはどのようにして違いを生み出すべきなのでしょうか?
答えは、参加者に「自分は特別だ」と感じてもらうことにあります。
どれだけ素晴らしいリリースであっても、画面越しに見るキーランがあなたの誕生日を覚えてくれていたり、キレイなフォームのプッシュアップを褒めてくれることはないでしょう。フォロワー240万人のインフルエンサーは、確かに誰もが憧れる肉体美を持っているかもしれません。しかし、リクエストしたからといって翌週のクラスであなたの好きな曲を流すことはないでしょう。当然ですが、ChatGPTが提案するワークアウトでは、辛い時に笑顔で励ましてくれたり、より効果的なバーベルスクワットのヒントを教えてくれるインストラクターはいません。
では、プロのインストラクターは何をしているのでしょうか? Les Millsの人気プレゼンターに聞きました。
リーガン・カン(マレーシア)
「何を話すのかではなく、何を感じさせるかが重要だ」。私が受けた最高のアドバイスです。教えることは、私にとって愛を表現する行為でもあります。クラス参加者がフィードバックを受け入れ成長する姿を見ることは大好きですし、学ぶことからアハ体験をする瞬間が見られることも大好きです。誰かの人生に付加価値を与えることができるなんて、かけがえのない経験です。
私は人とのつながりを大切にし、常にひとりひとりと真摯に向き合うことを意識しています。名前を覚え、クラス参加者全員に話しかけるようにしています。そうすることでスタジオに一体感が生まれ、1時間のクラスが音楽とワークアウトだけに集中できる時間になるのです。スタジオの外で起こっていることを忘れ、今その瞬間だけを楽しんでもらいたいんです。クラスが終わる頃には、きっと最高の気分になっているでしょう。
キーラン・ヒューストン(ニュージーランド)
まずは、参加者の視点に立ってプログラムについて考えてみてください。私たちはインストラクターという職業に熱心なあまり、時に初心者やクラス参加者の気持ちを忘れてしまうことがあります。フィットネスというジャーニーには様々な段階があり、もちろんクラス参加者のフィットネス歴も様々です。私たちは、「コリオグラフィーを確実に覚えて、コーチングのレイヤーをしっかりやらないと!」といったことに固執するあまり、「教えていること」を忘れがちです。私たちは、クラスの参加者にフィットネス体験を提供しているのです。結局のところ、そういった体験こそが、プログラムのためだけでなく、あなたというインストラクターのクラスをリピートしてくれることにつながるのです。
アンソニー・オックスフォード(イギリス)
私のクラスでは、スタジオに入ってきた時よりもいい気分で帰宅してもらうことをテーマにしています。参加者がどんな毎日を過ごしているかはわかりません。笑顔でスタジオに入ってきたからと言って、その人が本当に幸せだと断言することはできません。私自身、落ち込んでいる時でも笑顔を取り繕うことがあります。私は、周りの人の気分を良くすることで、自分自身の気分も良くしようとしているのです。自分の感情や弱さを受け入れられること、そして自分の強みと弱みを理解していることこそが、自分の強みだと思っています。
オットー・プロダン(ニュージーランド)
私にとって人生初のLes Mills体験は、BODYATTACKのクラスでした。その時のインストラクターがしっかり私に向き合ってくれたので、「ここには自分の居場所があるんだ」と感じることができました。それまでの私は、学校でも家でも居場所を見つけられませんでした。体型にも自信がなく、自分の存在を否定されるようなこともありました。ですが、そんなことはスタジオでは関係ないんです。インストラクターも気にしていませんでした。何より自分らしく、そして好きなだけ派手に手を振って楽しむようにと背中を押されました。決して他ではできない自己表現ができたんです。
あの時のBODYATTACKインストラクターが本当の自分に向き合ってくれたように、私もクラス参加者全員に向き合いたいと思っています。あなたが誰であるかは関係ありません。フィットネスレベルも関係ありません。家庭での悩み事も関係ありません。スタジオでは全身を使って楽しい時間を過ごすことができ、気持ち良くなることができます。誰も批判はしません。
エイミー・ルー(ニュージーランド)
私には、グループフィットネスのアイドルが2人います。
1人目はグレン・オスターガードです。インストラクタージャーニーの初期、私は人前で話すことに自信が持てなくて、グループの中ではただ静かに周りを観察しているだけでした。ご存知のように、グレンは物静かな人です。ですが、静かな中にも自信が満ちあふれていて、場を支配できるだけの力を持っています。そんな彼から「静けさを武器にする」術を学びたいと思いました。同時に、彼の仕事に対する倫理観や自分を信頼する姿勢も見習いたいと思いました。
そして、2人目は大好きなガンダルフ・アーチャー ・ミルズです! ご存知の通り、彼のクラスはどれも素晴らしく、参加者に最高の体験を提供しています。もちろん素晴らしいダンサーであり、魅惑的でユーモアにあふれ、クリエイティブでもあり、何より唯一無二の存在です。でも、彼を尊敬する本当の理由は、その自由な姿にあります。既成概念にとらわれないんです! 彼は彼らしく、ただ自分の好きなことをやっているだけ……。その姿にいつも刺激を受けています。そして、彼が自分自身をさらけ出しているからこそ、クラスの参加者も同じように自由になれるんです。ガンダルフ以上のコネクションを生み出す人はいません。私のクラス参加者にもそう感じて欲しいと思います。
ハウス・シャーレーン(シンガポール)
教えることが好きなのは、どんなことであれ、目標を達成するために来ているメンバーの役に立っていると感じられるからです。それは、ただ楽しむことであったり、嫌なことを忘れることであったり、一定のカロリーを消費することであったり、キックやパンチを通して悩みを打破することであったりします。彼らの目標達成の手助けができたと思うと、とても良い気分になれます。メンバーの役に立つことはやりがいがあり、充実感があります。
数年前、今は私の大切な友人となったあるメンバーは、仕事がなく人生に苦しんでいた時に、私のクラスによく来ていました。クラスは彼にとって「酸素」のようだったと話します。彼の誕生日に、彼をステージ上に呼んで一緒にクラスをしたことがあります。それは彼にとって、愛され、受け入れられ、認められているという、欲していた全ての気分を得られるものでした。当時の私は彼の状況をまったく知りませんでしたが、ただ彼がクラスを楽しんでいるのを見るのが好きでした。数年後に彼がその時の仕事と生活の状況について話してくれたのですが、クラスを受けることが、完全に自制心をなくすことから救ってくれたと言います。これが、私が仕事を続ける理由です。仕事がうまくいったという満足感と、たとえ小さな規模であっても、私たちが人の人生を変えることができるということを知ること。一歩一歩が進歩なのです。